1968年 角川文庫
解説は大岡信さんです。
谷川さんに大岡さん、それに僕の好きな吉野弘さんは
「櫂」っていう同人で一緒のメンバーやってるんですね、へぇー。
いくつかいいなと思ったのだけ引用しておきます。
「62のソネット」の32から
「だが今日まだ私は若さの頭痛に悩まされる
陣痛のようにそれは産みたがる
私は駈け出す 私は浪費せねばならぬ」
同じく「62のソネット」の45から
「昼には青空が嘘をつく
夜がほんとうのことを呟く間私たちは眠つている
朝になるとみんな夢をみたという」
「あなたに」から
「男の敵 Westerna
皮の胴着を伊達に羽織って
四五口径を鳴らしてみるが
空は勿論堕ちてはこない
仕方なく町へ行つて女と
寝る それから
眠つて たつぷり
夢をみる
朝起きてコーヒーを飲んで
豆を食べても
敵は強すぎる
ひげ面だけは威勢がいいが
弾帯の下の彼の息子はしょんぼりしている
仕方なく町へ行つて無理にまた女と
寝る それから急に女を
愛したような気分になる
――結婚して坊やが一人嬢やが二人
もう空のことは忘れてしまう
四五口径はもつぱら錆びる
時々空を見上げるが
いつも青いなとしか思わない
死ぬ三分ばかり前に戦うことを思いだす
だがもうおそい ハモニカがきこえて
彼は砂の下におちついてしまう
砂の上には青い空
いつもいつも青い空
いつもいつも青い
傷ひとつない美しい
彼の上には青い空
いつもいつもいつまでも」
「落首九十九」から
「事件
事件だ!
記者は報道する
評論家は分析する
一言居士は批判する
無関係な人は興奮する
すべての人が話題にする
だが死者だけは黙つている――
やがて一言居士は忘れる
評論家も記者も忘れる
すべての人が忘れる
事件を忘れる
死を忘れる
忘れることは事件にはならない」
同じく「落首九十九」から
「おつかさん
地球はジエツト機をつかまえて
大地の胸に抱こうとする
地球は潜水艦をひきずりこんで
海の子宮にかえそうとする
宇宙にやきもちをやいている
わからずやのおつかさん
地球はあいかわらず
私たちの足をひつぱる
私たちはもう思春期だつていうのに
もうそろそろ月にさわろうという年頃なのに」
最後にあとがきからも
「詩を定義することは私にとってますます困難になりつつあるが、いざ現実に書き始める時には、そんなことがあまり気にならぬものである。それが詩であり得ているのかどうかは不確かでも、美しいものをつくりたいという欲望と、それをつくっていると信じこんでいる時の歓びは、何度でもくり返して私を駆る。」
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